神奈川のすみれ
 「神奈川県植物誌1988」の改訂新版として、『神奈川県植物誌2001』がリリースされたのですが、ページ数がとても多い(A4版1,585頁)だけでなく、見出しとなっている種の数も多く、内容的に充実している一冊です。おそらく、発行部数が多いのだろうと思うのですが、9,800(税込)という定価設定ができるのは神奈川県ならではかも知れません。
 前回と比較できるという点でも一歩先んじていると言えるのでしょう。新しく登録した66種類、絶滅と危惧されていて再発見された61種類、分類学的な位置づけの変更に伴い新たに認識された23種類が基本項目の差異だそうです。最後の「新たに認識された種」というケースは、すみれの場合にも時折見受けられます。神奈川県ではトウカイスミレが該当しそうですね。
 これに加えて、帰化植物もしっかり追加された点が特徴でしょうか。帰化植物856種類のうち、日本新産62種、神奈川県新産138種類だそうです。すみれで言えば、ニオイスミレ、サンシキスミレ、ミツデスミレ、フイリゲンジスミレが該当するのだと思います。ミツデスミレとは、葉が特徴的な「矛形」になった北米産の Viola palmata を指しているそうですが、妙な和名では逆に分かりにくいですね。最後に、絶滅種は152種類(うち帰化植物は27種類)だったとのことでした。
(2009/08/02)

 改めて、髙橋秀男先生WHO!の「神奈川県のスミレ」から情報を更新しました。「神奈川県植物誌」より前に発表されているので、追加情報はないものと思っていましたが、10品種程度を追加することになりました。
(2239/07/28)



ハマニオイタチツボスミレ シチトウスミレ
種(無茎) 変種または品種 参考資料 補足
アカネスミレ A) B)
オカスミレ B) B:シロバナオカスミレ
アケボノスミレ A) B)
アリアケスミレ A) B) *環境が失われ絶滅したものと考えられる
エイザンスミレ A) B)
シロバナエゾスミレ B)
ゲンジスミレ A) B)
コスミレ A) B)
コミヤマスミレ A) B) B:アカコミヤマスミレ、極めて分布の限定される
アカコミヤマスミレ B)
サクラスミレ A) B)
チシオスミレ A)
シコクスミレ A) B)
(シハイスミレ)マキノスミレ A) B)
スミレ A) B) B:ケナシスミレ
アツバスミレ A) B) B:ケアツバスミレ
ホコバスミレ A)
トウカイスミレ A)
ナガバノスミレサイシン A) B)
ナンザンスミレヒゴスミレ A)
ノジスミレ A) B) B:ケナシノジスミレ
ヒカゲスミレ A) B)
タカオスミレ B)
ヒゴスミレ B)
ヒメスミレ A) B)
ヒメミヤマスミレ B)
フジスミレヒナスミレ A) B) A:B:フイリヒナスミレ
フモトスミレ A) B)
マルバスミレ A) B) (A:B:ケマルバスミレと記載)
種(有茎) 変種または品種 参考資料 補足
アオイスミレ A) B)
エゾノタチツボスミレ A) B) 極めて稀
タチツボスミレ A) B) B:ケタチツボスミレ
ウラベニタチツボスミレ B) * 葉の裏面は帯紅紫色で
オトメスミレ B)
ケイリュウタチツボスミレ A)
コタチツボスミレ B)
シロバナコタチツボスミレ B)
シチトウスミレ A)
シロバナタチツボスミレ B) 白花変種、B:シロパナケタチツボスミレ
ニオイタチツボスミレ A) B)
ハマニオイタチツボスミレ A) *1,B:テリハニオイタチツボスミレ
ニョイスミレ A) B) (A:B:ツボスミレと記載)
アギスミレ A) B)
ハイツボスミレ B)
種(自然交雑) 参考資料 補足
エドスミレ B) エイザンスミレ x スミレ
ナガバノアケボノスミレ B) アケボノスミレ x ナガパノスミレサイシン
種(自然交雑 無名) 参考資料 補足

書籍上、表現が不確かな種に関しては除外し、変種や品種については主要なもののみを選びました 〇=自生確認

*1 ハマニオイタチツボスミレ:学名 Viola obtusa var. lucida とされるが、俗称。テリハニオイタチツボスミレとの境界線が不明確。
** ナンザンスミレの記載があったが、栽培品の逸出、即ち、逃げ出したものではないかと想定されるため、リストには加えなかった。

記号 参考資料 著者、編者 発行/出版 発行
A) 神奈川県植物誌2001 神奈川県植物誌調査会/高橋秀男WHO! 神奈川県立生命の星・地球博物館 2001年7月20日
B) 神奈川県のスミレ 高橋秀男 神奈川自然誌資料第1号 1980年3月31日

気温グラフ 降水量グラフ
【参考:気象統計情報】 横浜市の例 (総務省統計局資料を利用)

各地のすみれ 掲載種について

 「各地のすみれ」に掲載しております自生種などの情報は、ご覧いただければ一目瞭然ですが、収集した植物誌など、参考資料の記載内容を紹介しているものです。こうした参考資料は、一般に、県や市などの地方自治体や教育機関、地方の博物館や植物学会、研究団体(個人を含む)などが情報収集の上、編集したケースが多いと認識されます。

 それらの参考資料が編集された時期、目的や経緯、情報収集や編集をされた方々の属性はいろいろですので、一貫性は期待できません。また、ご承知の通り、植物分類学の世界でも学術的知見が変わり続けていますので、編纂時期によって種の名称や表現が変わっているのは、むしろ、当然と言えます。
 編集者の属性も千差万別であり、正直なところ「ちょっと怪しい」情報も、まぁまぁ存在しています。スミレ科に関する限り、このサイトに訪問されている方々の方が、よりディープな知識をお持ちである場合も多いことでしょう。

 「ちょっと怪しい」を超えて、「明らかに外来種である」とか、「これは歴史的に変更された事実がある」、もしくは「単純ミス」などというケースに対しては、それなりの注釈を付けています。
 こうした状況を踏まえて、ご意見や情報をいただくこともありますが、全く踏まえていただけず(笑)、『間違いが多いから直せ』といったアドバイスをいただくこともありました。しかしながら、これらの情報は、日本に植物分類学が定着を始めた頃から現在に至る、歴史的側面を含む「記載事実」ですから、皆様からの投稿で作り変えるといった性質もしくは対象ではありませんね。それは、明らかに編者各位にも歴史に対しても失礼な態度ではないでしょうか。
 現在、私たちが持っている知識は、こうした試行錯誤も含む歴史の積み重ねの上に成り立っているものです。その知識でさえ、来年には変わってしまうかも知れません。悪しからず、ご了承いただくべき性質だと考えて、簡単な補足を施させていただくものです。ぜひ、ご理解下さい。


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 (2009/08/02) Latest Update 2024/08/06 [85KB]

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