上の葉の写真は左が典型的なマキノスミレで、右が千葉県で観察された個体のものです(1枚だけ、いただきました)。葉の特徴から考察する限り、シハイスミレの方に近いと思いませんか。ただ、シハイスミレとしては表面の光沢が強い方で、裏面の紫色が薄めの型ということになります。これは微妙ですね。
シハイスミレの葉の形状については長卵型(または披針形)と表現されますが、典型品はやはり長卵型で右のものとは違います。ただ変異が多い種ですので、「披針形だからどうだ!」という根拠は乏しいと言えましょう。
でも、裏面の色については、シハイスミレは「紫背菫」だけあって強く紫掛かっているものが多いようです。マキノスミレは紫色が淡くて、花後には緑色になってしまうことが多いとされます。
では、この千葉県の個体がもう少し葉が長くなり、立ち上がり方が鋭角だったら・・・?「みのかものスミレ」という小冊子によると、美濃加茂市にはシハイスミレとマキノスミレの両方が自生していて、どちらか区別できないものも多いそうです。まさか、房総半島でそんな悩みを抱えるとは想像もしていませんでした。2008/04/11
下の分布図には千葉県の位置に「一般情報」が入っていますが、レッドデータからの2002年の情報です。つまり、今回の情報ソースは同じこのすみれたちだという訳です。この情報以前はブランクでした。自生地から推察すると、観察できた個体はマキノスミレの可能性が高いことは一目瞭然ですね。こうなると、自生数が限定的な埼玉県と神奈川県のマキノスミレと比べてみたくなりませんか。
ところで、実際に株たちを見ながら、これは「自生」なのかな?と考えていました。ここには多くの樹木が人工的に植え込んであり、もしかしたら、シハイスミレやマキノスミレの自生地から土ごと運ばれたということも考えられるからです。はじめは10株程度が狭い範囲で見つかっただけでした。諦めずに歩いて歩いて、やっとのことで別の群落を見つけました。そこには相当数の株たちが、まさに自生していたのです。2008/04/11
やはり気になって、1週間後に再度観察にやって来ました。このすみれについて、近場には少なかったので、残念ながら十分な知識がありません。前回は咲き始めたばかりだったので、時間の経過によって、葉の立ち方や長さに違いが出るのではないかという思いがあったのです。
葉の「長さ」の方では、前回より若干長いものが多いかなという程度でしたが、「立ち方」はまさに鋭角な個体ばかりでした。葉がほぼ垂直に近い状態で立ち上がった上で、斜めに傾くという独特なスタイルの個体です。前言撤回になりますが、過去に判断された通り、マキノスミレとすべきかなと思い直しました。2008/04/17
新しい「千葉県の自然誌」の植物編にはマキノスミレとして記載されます。地元のO氏の依頼で千葉県立中央博物館のA先生、植物分類学者のT先生が確認に当たられたのだそうです。先生方の意見は参考に値すると思います。それはそれとして、できれば遺伝子レベルでの確認ができれば良いですね。
インターネット上での話ですが、千葉県には葉の裏面が緑色のシハイスミレが自生しているという情報もあります。シハイスミレは命名の由縁とイメージに反して、葉の裏面の色だけでは同定できないことが多々ありますが、添付されていた写真を拝見する限り、確かにシハイスミレと見た方が良さそうな個体でした。では、両方が自生しているということなのでしょうか。2008/06/06
「千葉県の自然誌」の記載では、日本海側の典型品に比べて葉身の幅がやや広いと記載されるようで、典型品ではないことが少し強調されるようです。その上でマキノスミレと記載するということでしょう。ただ、当該説明文で「表面は殆ど光沢がなく、裏面も赤紫色を帯びていない」と表現される様子で、現地で撮影した個体には、ご覧の通りに光沢があります。観察地が異なるのかな?とも思いましたが、位置・標高も含めて合致しているようです。この話はどんどん分からなくなってきます(笑)。2008/06/25
今年の内に花後の葉(裏面)を観察しておこうと思っていました。曇天ながら雨にはならないと想定して、海へ遊びに行く途中で自生地に立ち寄ってみたのですが、若い株も見られて株数は増えているようです。さて、葉の裏面ですが、想像の通りに花期とは異なる淡緑色に変化していました。これはマキノスミレの特徴とされていますね。そうした特徴をまとめてみますと、結論はやはり「どちらとも言えない」ということでしょうか。つまり、マキノスミレに近い中間型であると表現して良いと思います。
蛇足ながら、変種のマキノスミレと言い切れないのであれば、母種のシハイスミレと言うべきだという意見もありましょう。ただ、母種とは命名基準上の位置付けに他ならず、どちらを母種として変種とするかに関する具体的な基準はないので、シハイスミレという名前に特段の優位性がある訳ではないようです。
項目 観察 特徴 葉の形状 若干長めながら、ヒナスミレに近い長卵形の域を出ない シハイスミレ 葉の裏面 花期に紫色を呈しているが、花後は淡緑色になる マキノスミレ 葉の傾斜 横から見ると葉柄が立ち上がり、葉身の先端が下を向く マキノスミレ 花弁の色 比較すれば赤味が強めだが、特筆すべき程度ではない どちらとも言えない 花茎の色 赤味を帯びる マキノスミレ 2008/07/07
シハイスミレ 大分県 2006年4月20日 | |
マキノスミレ 福井県 2008年4月2日 |
最近、千葉県の個体について、ネット上で「H先生がシハイスミレと断定した」というコメントを目にしました。また、前述のように「葉の裏面が緑色のシハイスミレ」、「葉がヒナスミレに近い」というコメントも目にしました。話の土台にある権威主義的な雰囲気については少し気になりますね。それはマキノスミレと同定して「千葉県の自然誌」に記載するきっかけとなった博物館や研究者と権威を競うことになりますが、それをH先生が望んだとは考えられません。少なくとも見た目で判断することが困難なタイプであることは、誰の目にも明らかです。それを断定するには相応の根拠が必要でありましょう。まして、短報等でマメに発表されていた骨太研究者気質のご本人が何ら発表していない内容を、他人が「断定した」と公言すべきではないと思いますが、いかがでしょうか。
問題は変化に幅があって、前述の通りに見た目で判断することは困難ということでしょう。この個体群とは別の系統が千葉県に自生するというのであれば、何とか話は分かりますが、「千葉県の自然誌」の記載はこの自生地のものですから、話が繋がっていないことになるのでしょう。
因みに、シハイスミレの自生地である大分県(上2枚)と、マキノスミレの自生地である福井県の個体(下2枚)と、千葉県の個体(中央1枚)を比較してみましょう。見た目であれば、果たしてどちらに近いかな!?そんな問題です。2009/01/25
従前、O氏として紹介していた千葉県産マキノスミレの発見者さんの話です。そのマキノスミレを自生地で友人と撮影をしていたところ、興味津々という風情で話しかけてきた方がいらっしゃったのですが、余りにも詳しいのです。唐突でしたが、こちらから「岡さんですか?」と問いかけたものですから、案の定、とても驚かれた様子でした。岡さんは地元の有名人だと思っていますが、それでも、少し話をしただけの見知らぬ者たちの口から、自分の名前が出てきては困りましたでしょうね。
ただ、岡さんについては、あちこちで実名で紹介されており、既にO氏とする必要はなさそうです。資料によりますと、「岡嘉弘が2002年4月6日に(房総半島中央部)で発見し、森将憲が同月11日に写真撮影をした。証拠標本は千葉県立中央博物館へ収蔵されている(CBM183642)。」と記載されています。後日談もあり、同定依頼は植物分類学の天野誠氏(千葉県立中央博物館上席研究員)を経由して、植物分類学の高橋秀男氏(神奈川県立生命の星・地球博物館名誉館員)に届き、「千葉県の自然誌(千葉県植物誌)」に記載されました。泉自然公園で福田洋氏から直接購入した「失われゆく千葉の植物(続編)」にも記載されています。2020/08/08
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(2008/04/11) Latest Update 2024/08/06 [800KB]