イブキスミレ【狭義ではユーラシア大陸に広く自生する基本種に対する変種】 (伊吹菫)
山梨県笛吹市 2003年4月26日
- 山梨県笛吹市 2004年4月29日
- 山梨県笛吹市 2003年4月26日
山梨県笛吹市 2005年5月3日 alt.=1,120m
分類 |
イブキスミレ類 |
学名 |
基本種 |
イブキスミレ(広義)Viola mirabilis L. Published in: Sp. pl. 2:936. (1753) |
変種 |
イブキスミレ(狭義)Viola mirabilis var. subglabra Ledebour Published in: Fl. Ross., 1: 251, 251, (1842) |
品種 |
シロバナイブキスミレ Viola mirabilis var. subglabra f. seiichii E.Hama |
異名 |
Viola apetala Gilib.
Viola brachysepala Maxim. Published in: Prim. fl. amur. 50. (1859)
≡ Viola subglabra (Ledeb.) Baikov
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由来 |
mirabilisd : 「不思議な」、「驚くべき」、「奇異な」、「珍しい」… 花を咲かせる、subglabra : 「微妙に毛が少ない」 |
外語一般名 |
【中】奇异堇菜、【韓】넓은잎제비꽃、【英/米】wonder violet |
茎の形態 |
有茎。花期は無茎状態、花後に茎を伸ばす。 |
生育環境 |
火山灰地、石灰岩地のやや暗い湿った落葉樹林下等を好む。一般に群生する。 |
分布 |
国内 |
北海道および本州に隔離的に自生している。日高地方、下北半島、東北太平洋側から長野周辺の山地、伊吹山、中国地方の山地。 |
海外 |
ユーラシア大陸に多いとされる。欧州(広域)、ロシア、モンゴル、中国、韓国。 |
補足 |
広島で何気なく観察していたが、実は隔離分布の典型だった。 |
花の特徴 |
形状 |
ニオイタチツボスミレに似た中輪。一般に側弁の内側には毛が密生する。 |
色 |
淡い暗紫から白色。側弁と唇弁に紫色の条が細く入る。 |
距 |
短く白色。心持ち、上向きに曲がる。 |
花期 |
極く早咲き。 |
花柱 |
下向きに曲がったカギ形。無毛。 |
芳香 |
あるものとないものがある。 |
補足 |
時に側弁に毛がない場合がある(北海道産)。花柱の先は鍵型に垂れる。 |
葉の特徴 |
形状 |
丸い心形から円形。花期でも比較的大きい。(通常)花後は対生する。 |
色 |
両面とも柔らかい緑色。表裏で差が少ない。芽生え期は裏面が褐色を帯びる。 |
補足 |
托葉は全縁で切れ込みはない(少ない鋸歯が見られることもある)。
大量の葉でこんもりとなる。初期には基部が巻いている。葉脈 が凹む。
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種の特徴 |
形状 |
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色 |
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補足 |
朔果の果皮には稜が盛り上がる。開放花の多くは結実しない。 |
根の特徴 |
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絶滅危惧情報 |
群馬県:準絶滅危惧種、東京都:絶滅、岐阜県:絶滅危惧Ⅰ類 |
基準標本 |
イブキスミレ : 旧ソ連
シロバナイブキスミレ : 長野県小県郡長門町 1967.5.2 by S. Mochizuki (京大収蔵)
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染色体数 |
2n=20 (Stepanov, N. V. & E. N. Muratova. 1995. Chromosome Numbers of some taxa of higher plants of Krasnoyarsk territory. Bot. Žhurn. (Moscow & Leningrad)) |
参考情報 |
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その他 |
伊吹菫の命名は、牧野富太郎博士が滋賀県の伊吹山で初めて見出したことによる(1881年5月)。伊吹山に個体数が多いという訳ではない。 |
根生の花が咲いた後、伸びた茎の先に2枚の茎生葉を対生させ、その間から花茎が極端に短い茎生の閉鎖花を付ける。北海道産の場合、根生の花が咲いた後、改めて茎生(腋生)の通常花を付けるので二季咲き的な状態になる。 |
イブキスミレはあるところにはたくさんあるのだそうで、この辺にあってもおかしくないという予測の下に初めて出掛けた場所でアッサリ見つかったりします。なかなか見つけられないすみれもあれば、こんなこともあるので、すみれ探索は止められません。
イブキスミレの仲間は日本では1種類。タチツボスミレとニオイタチツボスミレの中間に位置するそうです。東北地方の太平洋側、中部地方、中国地方に隔離分布します。
学名の mirabilis は「不思議な」という意味を持っています。花期は無茎種のイメージで、その後に有茎種のイメージになることから名づけられたのだそうです。
妙な咲き方のイブキスミレ
上の説明に従えば、右の写真は、春のイブキスミレとして一般的な咲き方ではないことになります。春は、無茎種的に根茎から花茎が伸びて咲くような形態が「通常花」のはずですが、写真は、そのまま有茎種のようですから、「閉鎖花が間違って咲いてしまった」というところではないでしょうか。ただ、どちらかと言うと菊のような茎頂花に見えますね。
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山梨県南津留郡 2001年5月5日 |
2001/05/12
広義のイブキスミレ、つまり、母種の様子を海外のサイト等で見ることができます。葉や茎、生え方等は日本の自生種と大きく変わりませんが、花の様子が少し違うようで、ニオイタチツボスミレに似た丸い印象です。
2016/07/19
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花期は花茎が根元から出て
無茎種に見えるらしいはずなのだが・・・
← 写真は夏葉に近い状態で
明らかに有茎種に見える
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山梨県笛吹市 2002年4月27日 |
「すみれ」らしからぬ姿ですが
同じ場所から複数の花芽が出ています
決して一茎多花ではありません
でもスミレには、
中国春蘭のように
一茎一花と一茎多花があるのです
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山梨県笛吹市 2002年4月27日 |
左の写真ではまるで無茎種のような生え際ですが、右の写真では茎が枝分かれしているのが分かります。
山梨県南津留郡 2009年4月12日 alt.=800m
山梨県北杜市 2013年4月13日 alt.=660-680m
群馬県吾妻郡 2010年4月24日 alt.=620m
広島県庄原市 2007年4月26日 alt.=400m
植物研究雑誌(The Journal of Japanese Botany Vol. 76, No3 177-179)で、北海道にもイブキスミレが自生することが報告されました。ところが、この個体群は側弁の基部に毛がない等、本州の個体郡とは微妙に異なる性質を持つとのことです。
2008/06/25
春の開放花は結実せず、閉鎖花からだけ結実するという説明が多いようです。でも、それでは遺伝子の多様性が維持できないことになりますね。閉鎖花からは「良く」結実して、開放花から結実することは「稀」とする表現が妥当なのでしょう。ただ、時に閉鎖花のはずなのに咲いてしまう現象が見られます。この辺で帳尻が合っているのかも知れません。
2008/06/30
北海道のイブキスミレについて、腋生する開放花の存在も報告されている。根生、腋生それぞれの開放花の間では「結果率や結実率」に差はなく、花の「時期と形態」が違うのだという。
2017/01/08
芽生えの頃、葉の端が丸まっていて、少し見える裏面は褐色を帯びています。
山梨県南津留郡 2010年4月3日 alt.=1,000m
芽生えから開花前の姿を観察することができました。葉は内側に巻いていて、葉の裏面が褐色を帯びていることが分かります。葉はまだまだ大きくなるのですが、既に白っぽい花芽が見えています。この状態から、独特の淡い青紫色を呈してくるのでしょう。
2010/04/08
左は、良く見かける閉鎖花。右は、余り見掛けない開放花由来の果実です。
山梨県 2002年4月27日
長野県 2012年6月2日
花期が早いので、他の種が咲く時期に、茎生葉の上にちょこんと乗った姿の閉鎖花を見掛けます。主に、この状態から果実が稔って種子が散布されますが、時に、開放花からの果実を見ることがあります。右の写真が開放花からの果実で、根生葉と同じ位置から伸びているようです。実は、この近くで閉鎖花が同時に咲いているのです。
2012/06/07
ブログなどでは、タチツボスミレや外来種などの写真が誤って掲載されていることが多い種です。今なら「どうして、これがイブキスミレに見えるのかなぁ?」と思ってしまいますが、まだ未見の頃は、図鑑などで目にしたイメージが脳に定着していない感じだったことを覚えています。
一度観察すれば、タチツボスミレと混同するようなことはないでしょう。花や葉の醸し出すソフトなイメージ、こんもりと展開する株の姿、どれもこれも特徴的です。ただ、是非、自生地で直に観察して下さい。植栽品は、また別のイメージなのです。
2014/12/14